【閲覧推奨】『武田鉄矢の「中国の家庭には冷蔵庫ない」発言が中国でも物議』
— 黒色中国 (@bci_) 2021年3月4日
新型コロナが間違いないく中国から来たものだとの考えを示すとともに「一番の問題は何だと思う」とアシスタントに問いかけた上で、「冷蔵庫を持っていないんですよ」https://t.co/aGQKqhdZkL
武田鉄矢さんのラジオでの発言を巡って、バッシングが始まっている。
ハフィントンポストがすぐに検証記事を出したが、私も中国で冷蔵庫のない一般家庭を見たのは、10年以上前のチベット高原の村ぐらいしかないので(そもそも電気が通っていなかった)、武田鉄矢さんの中国では「一般家庭に冷蔵庫がない」という発言が、間違いなのは確かである。
(文化放送の公式サイトより)
ただ、タイトルで書いた通り、私としては武田鉄矢さんの主張を、「当たらずも遠からず」と思っている。
* * * * *
誰かが失言をやったからといって、一次ソースを確認もせずに、バッシングに便乗して袋叩きにするのではなく、まずは問題の放送を聞いてみようではないか。
【目次】
- 問題になっている放送内容について
- 話の組み立て方がオカシイが、よく聞くと指摘は間違っていない
- 中国では鳥インフルの発生を何度も繰り返したが、生きたニワトリの取り扱いをやめなかった
- 昔、中国の奥地を旅行していた時…
- 中国政府も野生動物の流通を危険視している
- 今後も繰り返される可能性を忘れてはいけない
- 関連記事
問題になっている放送内容について
問題のラジオ放送の音声は既に中国のネットにもアップされている。
▲最初は音声オフになっているので、右下のスピーカーアイコンをクリックすれば音は聞こえます。全部聞いても1分22秒で短い音声なので、ぜひ全部聞いてみてください。
話の組み立て方がオカシイが、よく聞くと指摘は間違っていない
武田鉄矢さんの、「(中国では)一般家庭に冷蔵庫がない」というのは間違いであるものの、彼が説明したかったのは、「市場では動物を生きたまま売っている。スッポンから、蛇から、センザンコウから、アルマジロから、コウモリまで。そのことが中国で新型コロナウイルスが発生した原因の1つではないのか」(※私の意訳として彼の発言を整理&リライトした)ということではないのか。
なぜか武田鉄矢さんは「一般家庭に冷蔵庫がない」という間違った認識の方向で話を強調し、結論してしまったために、騒動になっているのだが、彼の主張全体を見渡した時に、
「中国では一般家庭に冷蔵庫がない」
…が発言の主要部分ではなく、
「中国では市場で生きたまま動物を売っている。スッポンから、蛇から、センザンコウから、アルマジロから、コウモリまで。そんな風なところからもう一回コロナ問題を掴みなおしたほうが…」
…の部分を主に伝えたかったように聞こえる。
「冷蔵庫がない」は、あくまでも市場で生きた動物が流通している原因を説明しようとしただけに過ぎない(「冷蔵庫がない」は間違いであるが)。
ようするに彼は、「中国はコールドチェインが未発達で、野生動物を含む食用動物を生きたまま流通させることに危険性があるのでは」と指摘したかったのではないか。
中国のコールドチェインやら、野生動物の取り扱い、市場での生きた動物の取り扱いは、地域や時期によって一定してない。危険性をはらみ、たびたび問題を起こし、規制されたり、されてなかったりする。
普段この手の中国のニュースを毎日読み、実際の市場を見に行ったり、飲食関係者から話を聞くことの多い私には、とてつもなく不安にさせられたことが何度もあったのでした。
中国では鳥インフルの発生を何度も繰り返したが、生きたニワトリの取り扱いをやめなかった
▲こちらは一例に過ぎないが、私の記憶の限り、SARS(2005年)の流行以後でも、中国では頻繁に鳥インフルの感染者を出してきたが、一部の市場では取り扱いをやめたことはあっても、全国規模で生きたままのニワトリの流通・販売を全面的には辞めてはいなかった。
これがその、深センで建設中の前海開発区の付近にある市場の鶏屋さんの写真である。鳥インフルの騒ぎで上海の市場からは活鶏が姿を消したが、別の地方ではまだ残っていたりする。中国って強力な中央集権に見えて、地方での対応は不統一だったりするのだ pic.twitter.com/KpHvhr3YbT
— 黒色中国 (@bci_) 2014年10月27日
▲こちらは2014年の秋頃に深センで撮影したもの。今現在どうなっているかは不明だが、中国の市場では、このように生きたままのニワトリが、誰でも接近できる状態で、人通りの多い狭い道に面して販売されているのは珍しくなかった。
これには2つの原因がある。
- 中国人は新鮮な鶏を食べるのを好む。その方が美味しいからである。市場で生きた状態の鶏を自分で見て選んで、その場でシメて羽をムシってもらって持ち帰って食べる。生きたまま売られる鶏を「活鶏」(フオジー)と呼ぶ。その日のシメたてのニワトリは食べればすぐにわかるほど味わい豊かで、口当たりも歯ごたえも違う。中国人の家に食事に招かれた時に、鶏肉の料理を食べて、「お!これは活鶏だね?」と言い当てると、非常に喜んでもらえる。「ちゃんと違いのわかる客ではないか!苦労して活鶏を用意して良かった!」…となるのだ。
参加者が庭で鶏を放し飼いにしており、それで作った蒸し鶏。店で食べるのと違い脂肪少なめ、肉質は硬めだが、皮はムチムチした弾力を保っており、肉は噛みごたえがあって、味わいの深さは段違い。いくら食べても全く飽きない。鶏の新境地を開眼した pic.twitter.com/uaZuxHajjQ
— 黒色中国 (@bci_) 2016年2月18日▲ちなみに、こちらの鶏肉料理は、庭の竹林に放し飼いにしたという鶏で、春節の饗宴に参加した人の所有する庭で育てたものであった。それぐらい、中国人は生きたニワトリにこだわる。
- 冷蔵や冷凍で流通しているニワトリだと、正確にはいつシメられて、どのような流通を経てやってきたのかがわからない。生前の健康状態もわからない。病死したのかも知れないし、何らかの病気に感染したのを流通させているのかも知れない。
数年前に話題になった「ゾンビ肉」問題などもあったので、冷凍肉が忌避されるのであろう。
この他にも、
「冷凍はしていたけど、途中で停電になってしばらく温度が上がったことがあった」
「期限切れの冷凍肉のパッケージを変えて日付を偽装した」
「冷凍肉の運搬の時に冷凍車を使わず、普通のクルマで運んだ。すぐに着くから大丈夫…と思ったが、途中で渋滞に巻き込まれて…」
…などなど、この手の話は中国にいれば幾らでも聞ける。中国のコールドチェイン全体を見渡すと、非常に怪しいのだ。「中国の一般家庭に冷蔵庫は普及している」ぐらいのことで、鬼の首を取ったかのようにいい気になって、大きな問題に目を向けようとしないのは、まさしく「木を見て森を見ず」であろう。
つまり、中国では新鮮な活鶏にこだわる食習慣と、冷凍肉への不安感のために、生きた鶏が、一般市民にとても近い環境で流通・販売されており、これらがいつ感染病の原因になってもおかしくない状態が改められず、今も続けられているのだ。
昔、中国の奥地を旅行していた時…
もう10年以上前のことだが、中国の内陸部を旅していた頃、ある町でクルマの荷台でゴソゴソ動く何かを見つけた。
よく見ると、豚の鼻が隙間から突き出ているではないかw
私は動物好きなので、この写真を撮ってからすぐに
「ブタさーん!ヽ(^o^)丿」
と話しかけながら、歩み寄ったのだが、そばにいたジャバ・ザ・ハットみたいにでっぷりと太ったオバサンが大声で怒り出した。
オバサンはどうみても、ブタの持ち主に思えず、一緒にいた中国人にオバサンは何を怒っているのか聞いてみると(オバサンは方言しか使えなかった)、
「この地域では豚インフルエンザが流行しているから、ブタに近寄ってはいけない」
…とのことだった。
怒っているのではなく、警告してくれていたのだ。
私がいた町は、感染が確認された地域からは少し離れていたのだが、それでも豚はこのように無防備な状態で、運搬されていたし、ネットが今ほど発達してなかった当時は、まだ感染症の情報共有が徹底されていなかった。
私と友人は息を止めて、足早に立ち去ったが、この経験から私は以後、中国の街中で生きた動物を見かけても、近寄らなくなったのでした(´Д⊂グスン
中国政府も野生動物の流通を危険視している
▲こちらの動画は、2019年11月に投稿された広西チワン族自治区柳州市の市場の様子…実際の撮影がいつだったかは不明だが、武漢で新型コロナウイルスが蔓延(2019年12月)する前に投稿されているので、コロナ禍でバズるのを狙ってアップした動画ではなかろう。
こういうのは、規模の大小は別にして、中国の各地で見られた。私も以前、見かけたことがある。
武田鉄矢さんが危険視しているのは、このように生きたまま野生動物が流通する市場の存在であろう。
【中国、野生動物の食用を全面禁止 全人代常務委、「悪習」を根絶】
— 黒色中国 (@bci_) 2020年2月26日
■全人代常務委員会の決定により、ウサギやハトといった人工的な繁殖技術が確立された一部を除いて、陸上の野生動物の食用が全面的に禁止
■違反して野生動物の捕獲や取引などを行った場合には厳しく処罰https://t.co/rADAnJs8Yr
中国政府も、コロナ発生からすぐに、野生動物を危険視し、食用や捕獲・取引を禁止している。
【海南省で野生動物・製品の違法売買を摘発】
— 黒色中国 (@bci_) 2020年10月14日
■ビルマニシキヘビの生体、センザンコウやオオトカゲの標本、オウムガイ、オオシャコガイ
■ウミガメの生体と標本21点、六放サンゴやアオサンゴなどの製品2千キロ余り、サメの標本やマンモスの牙などhttps://t.co/yy3dtQfHqp
とはいえ、その後も摘発のニュースがあるので、野生動物の闇取引は続いているのだろう。
だから、武田鉄矢さんの指摘は、中国政府も認めるところであり、その点においては何も間違っていないのだ。
今後も繰り返される可能性を忘れてはいけない
中国では、漢方の影響なのか、そもそもの食文化のためか、珍しい動物や、変わった部位を食べる習慣がある。
犬や熊の手を食べるのは、皆さん聞いたことはあるだろうが他にも、
- トラのペニス(精力剤になるらしい)
- 猫(肝臓に良く、リウマチに効くらしい)
- コウモリ(淋病に効く)
- センザンコウ(血行を良くする。中風に効く)
…などの効能を信じて食用にする中国人はいるのだ。
中国の田舎の市場(というより路上に勝手に市がたつ)とか、クルマで通りかかる観光客を相手に、山道でいきなり野生動物を売っていたりすることもある。完全に規制することは難しいだろう。
* * * * *
このような食習慣を長年にわたって続けてきた中国では、野生動物や生きたままの状態での動物と、接近・接触することが多いのだ。
これらの状況を厳しく改めない限り、中国でまた感染症の発生が繰り返される可能性は今後もありえるだろう。
有名人の失言に便乗してバッシングに狂う前に、彼が言いたかったことの真意を汲み取って、中国の問題点を深く考察する…そんな風なところからもう一回コロナ問題を掴みなおした方が、パンデミックの再発防止のためには有益ではないでしょうか。

- 作者:鉄矢, 武田
- 発売日: 2020/11/20
- メディア:新書